廃水を資源に変える――I-PEXシンガポールのサステナビリティ革新プロジェクト

2025/05/12

I-PEX Singapore Pte Ltd (シンガポール・イシュン工場) 水再利用の流れ――RO廃棄水の再活用実施後 I-PEX Singapore Pte Ltd (シンガポール・イシュン工場) 水再利用の流れ――RO廃棄水の再活用実施後

世界的な水不足が深刻化する現在、水資源管理の先進国として知られるシンガポールにおいても、自然水資源が限られているという大きな課題に直面しています。

この状況を踏まえ、I-PEX Singapore Pte Ltd(シンガポール・イシュン工場)は、環境保全とサステナビリティの実現を目指し、廃水を価値ある資源に転換するプロジェクトを推進しています。

 

I-PEXグループは「人にやさしく、地球にやさしい」という基本理念のもと、環境負荷の低減に取り組んでいます。この取り組みの中核拠点であるシンガポール・イシュン工場では、廃水を有効活用する革新的なプロジェクトを実現し、節水と工場運営の効率化を達成しました。

プロジェクトの主な成果:

  • 2023年に、工場で使用した5,679トンの水を再利用
  • 工場における年間の水使用量を29%削減
  • シンガポール公益事業庁(PUB)から高評価を獲得、シンガポール国内のメディアで広く報道

I-PEX Singapore Pte Ltd:水資源が不足する、コネクタ生産の中心拠点

Yishun Plant, I-PEX Singapore Pte Ltd (シンガポール・イシュン工場) Yishun Plant, I-PEX Singapore Pte Ltd (シンガポール・イシュン工場)

I-PEX Singapore Pte Ltdのイシュン工場は1993年の開設以来、金型製造、成形、プレス、メッキ、組立、検査出荷の各部門を備え、I-PEXグループにおけるコネクタ製造の中核拠点として機能しています。特に、I-PEXグループに4拠点存在するメッキ工程を保有する拠点の1つであり、メッキ工程では1日に約100トンの水を使用します。

イシュン工場は、水資源の産出が限られ、貯水スペースにも制約があるため、最も水不足が深刻な国の1つであるシンガポールの北部に位置しています。シンガポールは長年にわたり、水資源管理のグローバルリーダーとして、増加する人口と経済成長に対応するため、水資源管理の革新を推進してきました。

精密技術に不可欠な水資源:メッキ工程の持続可能性を追求するイノベーション

コネクタの金属部品にニッケルや金などの薄膜をコーティングするメッキ工程は、高い接続性の確保と、錆びを防ぐために不可欠です。

この工程では、金属部品が水と化学薬品を充填した複数のタンクを順に通過します。各タンクは、脱脂・洗浄・下地メッキ・仕上げメッキなどの工程に対応しています。

シンガポール・イシュン工場のメッキ工程 シンガポール・イシュン工場のメッキ工程
メッキ工程:左から右へ、メッキ処理の一部として水と薬品を使用するさまざまな処理タンク メッキ工程:左から右へ、メッキ処理の一部として水と薬品を使用するさまざまな処理タンク

 

この工程では1日約100トンという大量の水を使用します。I-PEXでは、この水による環境負荷を軽減すべく、逆浸透膜(RO)システムを導入して使用済みの水を処理しています。

逆浸透膜システムは、使用済みの水に圧力をかけ、極微細な膜でろ過することで、再利用可能な純水を生成します。ただし、同時に、不純物を含むRO廃棄水も生成します。このRO廃棄水は、不純物を含むためめっきには使用できませんが、家庭用排水と比べて不純物が少なく、工場で適切に処理して排水していました。

それでも、イシュン工場では毎日10トンのRO廃棄水が発生しており、水資源の節約が国家的課題となっているシンガポールにおいては大きな課題でした。

廃水を資源へ――国から評価されたサステナビリティの取り組み

I-PEX Singapore Pte Ltd (シンガポール・イシュン工場) 排水の流れ――RO廃棄水の再活用実施前 I-PEX Singapore Pte Ltd (シンガポール・イシュン工場) 排水の流れ――RO廃棄水の再活用実施前

2022年2月、イシュン工場のメッキ部門は、1日あたり10トンが排水されるRO廃棄水の再利用方法について検討を開始しました。調査の結果、RO廃棄水は空調設備やコンプレッサーの冷却水として活用できることが判明しました。

 

インフラ整備が必要な困難な取り組みであったものの、工場の配管系統の大規模な改修を行い、2023年4月にRO廃棄水の再利用プロセスを本格稼働させました。廃水は専用タンクに貯蔵され、屋上の冷却塔を経由して空調システムで使用されています。

使用済みの水を再利用するI-PEX Singapore Pte Ltdのプロジェクトは、シンガポール国内の水不足対策への貢献が高く評価され、シンガポール公益事業庁(Public Utilities Board)の水効率改善基金から補助金も獲得しました。

I-PEX Singapore Pte Ltd (シンガポール・イシュン工場) 水再利用の流れ――RO廃棄水の再活用実施後 I-PEX Singapore Pte Ltd (シンガポール・イシュン工場) 水再利用の流れ――RO廃棄水の再活用実施後

 

このプロジェクトにより、水道料金の削減だけでなく、2023年には5,679トンの排水を再利用し、年間水使用量を29%削減することができました。

この持続可能な取り組みは、シンガポールのビジネス雑誌やテレビ番組でも取り上げられ、Channel News Asia(CNA)の特集「水道料金値上げを前に企業が取り組む節水策」にて、プロジェクトリーダーであるJoseph Chooのインタビューが放映されました。

 

プロジェクトリーダー・Joseph Chooのインタビュー 2023年9月27日、Channel News Asia(シンガポールを拠点とする多国籍ニュースチャンネル):Firms take steps to use less water ahead of price hikes) プロジェクトリーダー・Joseph Chooのインタビュー 2023年9月27日、Channel News Asia(シンガポールを拠点とする多国籍ニュースチャンネル):Firms take steps to use less water ahead of price hikes)

 

さらに、社外からの評価に加えて、社内でもシンガポールチームの革新的な精神と献身的な努力は高い評価を受け、I-PEXコーポレートアイデンティティ賞を受賞。持続可能性を優先することで何が達成できるかを証明する例として、活動内容がI-PEXグループ全体で共有されました。

未来に向けた展望:製造業から世界へ広がる持続可能性への貢献

この取り組みは、シンガポールの水不足解決だけではなく、持続可能な製造業のロールモデルともいえる成功事例です。再利用できる水を無駄にせず活用することで、I-PEX Singapore Pte Ltdは、より持続可能な未来への道を開き、革新的なソリューションが環境への負荷低減と企業価値の向上に繋がることを実証しました。

今後も、I-PEXグループは地域とグローバルのサステナビリティ推進に貢献し、持続可能な社会の実現に向けて歩み続けます。

このプロジェクトは、産業用水のリサイクルや環境に配慮した工場の実現を目指す他の企業の模範となるものです。私たちはともに変化を起こし、次の世代により良い、より持続可能な世界を築いていきます。

I-PEX Singapore Pte Ltdの概要

法人名
I-PEX Singapore Pte Ltd
所在地
55 Yishun Industrial Park A, Singapore 768728
従業員数
269名(2025年2月末現在)
事業内容
コネクタ製造

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