リユースバッテリー事業の現在地――GBNet福岡で「RENERATH」について講演

2025年8月20日、ホテル日航福岡(福岡県福岡市)で開催された「グリーンEVバッテリーネットワーク会議(以下、GBNet福岡ネットワーク会議)」にて、新規事業開発統括部エネルギーソリューション部の白坂智之が「リユースバッテリー事業の現在地」をテーマに、I-PEXの蓄電池システム「RENERATH(リネラス)」と、EVバッテリー資源循環モデルへの取り組み・今後の展望について講演しました。

ここでは、GBNet福岡ネットワーク会議での講演内容を編集してご紹介します。

グリーンEVバッテリーネットワーク福岡とは

グリーンEVバッテリーネットワーク福岡は、福岡県主導で設立された官民連携組織で、電気自動車(以下、EV)の使用済みバッテリーの回収・リユース・リサイクル・再製造を一体的に行う「福岡モデル」の構築を目指しています。2025年8月時点で39の企業・団体が参画し、経済産業省・環境省もオブザーバーとして参加しています。

リユースバッテリー事業の現在地——2025年8月20日に開催されたGBNet福岡ネットワーク会議での講演より

I-PEX株式会社新規事業開発統括部エネルギーソリューション部 白坂智之 I-PEX株式会社新規事業開発統括部エネルギーソリューション部 白坂智之

1. 金型メーカーからエネルギーソリューション事業への挑戦

蓄電池システム「RENERATH」の2つの製品ラインナップ 蓄電池システム「RENERATH」の2つの製品ラインナップ

I-PEXは1963年に精密金型メーカー「第一精工株式会社」として創業し、プラスチック成形部品、コネクタ、MEMS技術を活用した製品など、時代のニーズに応じたものづくりで事業を拡大してきました。2024年1月には、新たな挑戦としてエネルギーソリューション事業に参入。使用済みEVバッテリーをリユースした蓄電池システム「RENERATH」シリーズを立ち上げ、ソーラー街路灯、可変型蓄電池という2つの製品ラインナップを展開しています。

地政学的リスクの高まりやレアメタル資源の供給不安が懸念されるなか、日本国内に蓄積される使用済みEVバッテリーを有効活用し、エネルギーと資源の両面で新たな価値を生み出すことが、この事業の狙いです。

2. レアメタル供給リスクとリユースの意義

リチウムイオンバッテリー製造からリユースまでのイメージ リチウムイオンバッテリー製造からリユースまでのイメージ

こうした取り組みが求められる背景には、EVの普及や再生可能エネルギーの拡大に伴う課題があります。リチウムイオンバッテリーの主要素材であるコバルトやニッケルの需給逼迫が深刻化し、新造バッテリーの安定供給に不安が高まっています。さらに、バッテリー製造には多くの資源とエネルギーが必要で、製造過程で約6トンのCO₂を排出するとされています。 一方で、EVとしての役割を終えたバッテリーには、8年以上・16万km以上走行後も一定の性能が残っており、非常用電源や蓄電池などに再利用できる可能性があります。

私たちは、こうした使用済みバッテリーのように一旦役割を終えた製品や素材を、コバルトやニッケルなどの「地下資源」と対比して「地上資源」と認識しています。こうした「地上資源」を活用することは、資源の有効利用と環境負荷低減の両面で重要な意味を持ちます。

ただし、技術だけで自動的に社会実装が進むわけではありません。制度やサプライチェーン全体の仕組みづくりを、関係者と連携しながら進めていくことが不可欠です。

3. 協業による社会実装の推進

「GBNet福岡」キックオフ会議(2024年7月2日開催) 「GBNet福岡」キックオフ会議(2024年7月2日開催)

法制度、市場形成、ユーザー認知など、多くの要素が絡み合うリユースバッテリーの市場においては、関係者との協調が不可欠です。I-PEXはこうした課題に向き合うために、GBNet福岡に加え、「EV電池スマートユース協議会」にも参画しています。

GBNet福岡では、I-PEXは使用済みEVバッテリーを蓄電池として再製品化するリユース工程を担当し、蓄電池システムの開発・製造・販売を通じて、福岡発のEVバッテリー資源循環モデル「福岡モデル」の構築に関わっています。EV電池スマートユース協議会では、大手通信・物流・リース事業者など19社のほか、大学教授、経済産業省・環境省、福岡県が参加し、EV電池の循環利用に関わるコスト構造や品質・安全管理、ビジネスモデルのあり方を議論しています。I-PEXは、蓄電池システムの展開を見据え、「規格の標準化」や「社会実装モデルの構築」をテーマに、業界全体のルールづくりと市場形成に貢献していく考えです。

RENERATHシリーズには、バッテリーの稼働状況や交換時期を把握できるIoTを活用した遠隔監視・制御システムも搭載可能です。私たちは、導入案件の拡大にあわせて、遠隔監視データの利活用を通じた制度設計やインセンティブ設計への展開も構想しています。

4. 地産地消モデルの構築と社会実装への取り組み

こうした枠組みづくりと並行して、地域社会での実証と導入も進んでいます。

EVバッテリー資源循環の構想を実際の地域社会で具現化するため、I-PEXは九州圏を起点とした「地産地消モデル」の構築を目指し、自治体や地域イベントと連携してRENERATHの活用を進めています。

福岡県小郡市立東野小学校での取り組み

東野小学校へ設置したRENERATH ソーラー街灯 東野小学校へ設置したRENERATH ソーラー街灯

その一例が、福岡県小郡市立東野小学校での取り組みです。同校は災害時における指定避難所の増設施設にも位置づけられており、I-PEXは「RENERATH ソーラー街路灯」を2基寄贈しました。平常時は通学路周辺の防犯・防災に役立ち、災害時には内蔵のバッテリーBOXを取り外し、避難者のスマートフォン充電などに用いることができます。子どもたちが日常的に目にする場所にリユースバッテリーが存在することで、環境・エネルギー教育の題材にもなります。

大阪市うめきた公園での取り組み

蓄電池システム「RENERATH」(写真中央)から水を再利用する水循環型の手洗いスタンド(写真左右)へ電源を供給 蓄電池システム「RENERATH」(写真中央)から水を再利用する水循環型の手洗いスタンド(写真左右)へ電源を供給

また、大阪市のうめきた公園で開催されたパナソニック株式会社主催の「スポーツ×公共空間×防災のチカラ」(2024年11月8日)および「パナソニック うめきた Sports Day in Autumn」(同9日)では、「RENERATH 可搬型蓄電池」の実証も行いました。

同イベントでは「スポーツの感動空間が災害時の快適避難所に~ガンバPV(パブリックビューイング)が実現するエンターテイメントと防災の融合。」をテーマに、防災とエンターテインメントを掛け合わせた企画が行われました。「RENERATH 可搬型蓄電池」は、水循環型手洗いスタンドやデジタルサイネージ、キッチンカーへの電力供給を担い、非常用電源としての有用性を検証しました。

福岡市天神中央公園での取り組み

蓄電池システム「RENERATH」(写真右)を電力源にアート作品をライトアップ。点灯式には服部誠太郎福岡県知事(左から2番目)、アーティスト・しばたみなみさん(写真左)らが出席。 蓄電池システム「RENERATH」(写真右)を電力源にアート作品をライトアップ。点灯式には服部誠太郎福岡県知事(左から2番目)、アーティスト・しばたみなみさん(写真左)らが出席。

福岡市の天神中央公園で行われたクリスマスツリーの点灯式では、漂着ごみや廃材を活用して制作したツリーやアート作品のライトアップ電源として「RENERATH 可搬型蓄電池」が使用されました。ごみ拾いイベントの集大成として実施されたこの企画は、「廃棄物の再利用」と「再生可能エネルギー由来の電力供給」を組み合わせる象徴的な取り組みとなりました。

 

東野小学校での導入や、うめきた公園・天神中央公園でのイベント出展を通じて、私たちはEVバッテリー資源循環の「地産地消モデル」が、レアメタル資源の有効活用やCO₂排出の削減につながるだけでなく、防災、教育、イベントなど身近な場面でも機能できると考えています。

5. まとめ:持続可能な未来に向けて

蓄電池システム「RENERATH」活用のイメージ 蓄電池システム「RENERATH」活用のイメージ

使用済みEVバッテリーを廃棄せず、蓄電池システムとして再利用することは、レアメタル資源の有効活用やCO₂排出の削減につながるだけでなく、災害時の非常用電源や地域の防災・防犯にも貢献しうる取り組みです。

私は、「『地上資源』が豊富な日本だからこそ、このリユースバッテリー事業が必要である」と考えています。I-PEXは、EVバッテリーの製造・回収・リユース・リサイクルの各工程に関わる企業や自治体、関係機関と連携しながら、蓄電池システム「RENERATH」を通じて、EVバッテリー資源循環の地産地消モデルを確立し、新たな市場と価値の創出を目指します。

 

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