メインコンテンツに移動

「布」の近接センサ「Smart Cloth(スマートクロス)」が広げる、人と機械の安全共存

人が約15cm以内に近づくと反応する、布でできたセーフティ人感知センサ「Smart Cloth(スマートクロス)」

工場のロボットが作業者に気づいて動きを止める、配膳ロボットが子どもの手に反応して停止する、コンベアが人の接近を感知して自動で止まる——人と機械が同じ空間で安全に共存するために、センサ技術への期待はますます高まっています。

そうした現場の課題に、ユニークなアプローチで応えるのがI-PEXの「Smart Cloth(スマートクロス)」です。その名のとおり「布」でできた近接センサ※1で、設置箇所に巻き付けて使うため、従来のセンサで必要だった穴あけや専用ステーの取り付けといった加工が不要です。曲面や複雑な形状にもそのまま対応でき、スペースの制約にも縛られません。

本稿では、協働ロボットや搬送ロボット、製造設備など、さまざまなシーンで活用できるSmart Clothの用途をご紹介します。

 

  1. ※1
    物体に触れることなく、その接近や存在を検知するセンサ

Smart Clothとは?フレキシブルな布の近接センサ

セーフティ人感知センサ「Smart Cloth(スマートクロス)」(エンジニアリングサンプル)
セーフティ人感知センサ「Smart Cloth(スマートクロス)」(エンジニアリングサンプル)

I-PEXが開発した「Smart Cloth(スマートクロス)」は、導電性の布(導電布)を検出電極※1として使用した静電容量式※2の近接センサです。人の手のような電気を通す物体が約15cm以内に近づくと反応(スイッチング)します。

アンプ※3が一体化されており、PLC※4やコントローラーの入力端子に接続することで使用できます。

Smart Clothの検知イメージ
セーフティ人感知センサ「Smart Cloth」が反応するイメージ

Smart Clothの最大の特長は「布」であることです。布ならではのフレキシブルな特性により、取り付け先の形状を問わず曲面や複雑な形状にも対応できます。また、簡単に後付けが可能で、大がかりな設計変更なしで導入できる点も大きなメリットです。

 

  1. ※1
    物体の接近を電気的に感知するための導体部分
  2. ※2
    物体が近づいた際に生じる電気容量の変化をとらえる検出方式
  3. ※3
    センサが検出した微弱な電気信号を増幅し、出力に変換する回路
  4. ※4
    Programmable Logic Controller。生産設備の動作を制御するための産業用コンピュータ

活用提案① 協働ロボット|エンドエフェクタ周りの安全対策

従来の課題

協働ロボットとは、安全柵なしで人と同じ空間で動作できるロボットのことです。ロボットメーカーはロボット本体の手首部分まで安全規格を取得していますが、手先に取り付ける工具やグリッパー※1などのエンドエフェクタは、ユーザー側のリスクアセスメントに委ねられてきました。

ロボット本体にはトルクセンサ※2や電流監視による接触検知機能が備わっており、ロボットが物体に当たれば停止します。しかし、エンドエフェクタが電動ドリルや尖った刃物、あるいは重量物を搬送するツールである場合、「当たってから止まる」では安全が担保できません。2025年2月にISO10218※3が改訂され、エンドエフェクタ部分の衝突に対するリスクアセスメントが明示的に求められるようになりました。

 

  1. ※1
    ロボットアームの先端に取り付ける把持装置。物をつかんで移動させるために使用する
  2. ※2
    回転力を計測するセンサ。ロボットが物体に接触した際の力を検知するために用いる
  3. ※3
    産業用ロボットの安全に関する規格

Smart Clothによる解決

Smart Clothをエンドエフェクタに巻き付けるように取り付けることで、人が接触する前にロボット側で人の存在を検知して停止させることが可能になります。布素材のため複雑な形状のエンドエフェクタにも対応でき、追加の設計変更なしに後付けで導入できます。協働ロボットの既存の安全入力端子※1や汎用IO端子※2の入力端子に直接接続できるため、大規模なシステム改造も不要です。

ロボットメーカーからの早期製品化のニーズも寄せられており、この課題への関心は高まっています。現状よりも安全性を向上させたい現場に対し、Smart Clothは即効性のある選択肢です。

 

  1. ※1
    安全入力端子は非常停止や安全機器からの信号を受け付ける専用の接続口
  2. ※2
    汎用IO端子は各種センサや機器と信号をやり取りするための汎用的な入出力接続口

活用提案② AGV・AMR・サービスロボット|上部・側面の検知補完

従来の課題

AGV※1やAMR※2などの工場内の搬送ロボットや飲食店での配膳ロボットなどのサービスロボットは、足元にLiDARセンサ※3を搭載して人の接近を検知しています。しかし、LiDARが検知できるのはあくまで足元のエリアに限られており、ロボットの側面や上部からの接近には対応できていないのが実情です。

たとえば、レストランの配膳ロボットでは、子どもがテーブル席から手を伸ばしてロボット上部に触れても止まらないケースがあります。工場のAMRでは、本体よりも大きく張り出した荷台が人と接触するという事故も報告されています。

 

  1. ※1
    決められた経路を自動走行する無人搬送車
  2. ※2
    センサで周囲を認識しながら自律的に走行する搬送ロボット
  3. ※3
    レーザー光を使って周囲の物体との距離を測定するセンサ技術

Smart Clothによる解決

Smart Clothを上部・側面・荷台部分に取り付けることで、LiDARではカバーできなかったエリアの検知が可能になります。全体を立体的にカバーする安全設計を実現し、人と搬送ロボットが共存する環境での安全性を大幅に向上させることができます。コントローラーの入力端子に、Smart Clothを接続することで使用できます。 

活用提案③ 成形機・半自動プレス機|ライトカーテンへの付加的な安全手段

成形機※1や半自動プレス機※2の安全対策は、ISOの規格によって危険源に対する安全対策が求められています。その代表例のライトカーテンにSmart Clothを加えると、さらに一段上の安全性を実現できます。

 

  1. ※1
    樹脂や金属などの材料を金型に流し込み、製品の形状に成形する製造機械。射出成形機が代表的
  2. ※2
    材料のセットなど一部の工程は人が行い、加圧・成形の動作は機械が自動で行うプレス加工機械

ライトカーテン周辺への設置

典型的な活用例のひとつが、成形機のドア部分に設置するライトカーテンの検知範囲外エリアのカバーです。ライトカーテンは通常、装置の直近に設置されるため、設備の横や周辺にいる作業者などをライトカーテンが検知できないケースがあります。Smart Clothを危険箇所の周辺に設置することで、こうした盲点を補完できます。 

半自動プレス機への適用可能性

半自動プレス機では、両手押しスイッチが主要な安全機構として採用されています。両手でスイッチを押していない間はプレスが下がらないという仕組みですが、スイッチの故障や誤検知のリスクはゼロではありません。挟み込みの危険箇所にSmart Clothを設置しておくことで、万一のスイッチ異常があった際にも人の手の接近を検知して停止させるという、追加の安全対策が可能です。 

Smart Clothの特長

どこにでも貼れることが大きなメリット

LiDAR、レーダー、光電センサ※1など従来から非接触で人を検知するセンサはありましたが、取り付け場所が限定されるという課題がありました。Smart Clothは形状を問わず「どこにでも貼れる」非接触センサとして、近接センサの市場において独自のポジションを確立しています。

 

  1. ※1
    光の遮断や反射を検知して物体の有無を検出するセンサ

感度が4段階で調整できる

検出距離は最大150mmです。製品版では150mm・80mm・30mm・12mmの4段階で設定可能な仕様を予定しています。この感度調整により、設置環境のノイズ状況や用途に応じた使い分けができます。一度取り付けると調整は不要な上、ロボットケーブル※1を採用しているため屈曲性や繰り返し動作にも対応できます。 

 

  1. ※1
    繰り返しの屈曲や振動に耐えるよう設計された、ロボット用途向けの耐久性の高いケーブル

Safety2.0 の適合製品

Smart Clothは現在、国内の安全規格である「Safety2.0」に適合した製品として販売しています。Safety2.0は、人・モノ・環境がICT技術※1を通じて情報を共有し、協調して安全を実現するという「協調安全」を実現するための技術的方策に基づいた規格です。従来の「人と機械を隔離する(Safety1.0)」という発想に対し、Safety2.0は人と機械が同じ空間で共存しながら安全を確保することを目指すものです。

ただし、Safety2.0は「より安全に使えるもの」という位置づけであり、ライトカーテン※2のように単体で安全を保証する「安全機器」とは異なります。あくまでも既存の安全機器に加えるかたちで、現状よりも安全性を高める補助的なセンサとして活用するものです。

 

  1. ※1
    情報通信技術の略
  2. ※2
    複数の光線を面状に照射し、その遮断を検知して機械を停止させる安全装置

製品ラインナップとロードマップ

現在(2026年6月時点)販売中のエンジニアリングサンプルは、まず試用・評価用の製品として提供しています。サイズは120mm×600mmの1種類です。

2026年7月頃発売の量産品はIP保護等級※1がIP65に向上し、12〜24Vの電源に対応します。なお、量産品のサイズは以下の3種類です。

  • 120mm×600mm
  • 100mm×400mm
  • 120mm×800mm

量産品の3サイズは、小型ハンドへの取り付けから大型のパレタイズロボット※2向けまで、幅広い用途をカバーするよう考慮されています。さらに将来的にはISO 13849-1※3に準拠した安全認証 CAT.3/PLd※4取得も計画されており、より高い安全要求への対応が見込まれています。

 

  1. ※1
    防塵・防水性能の国際規格による等級。IP65は粉塵の侵入を防ぎ、あらゆる方向からの水流にも耐える水準
  2. ※2
    製品や荷物をパレットに積み重ねる作業を自動で行うロボット
  3. ※3
    機械の安全関連制御システムに関する国際規格。安全性能の水準を定める
  4. ※4
    ISO 13849-1における安全カテゴリと性能レベルの区分。単一故障が発生しても安全機能が維持される水準

他に想定される用途と活用可能性

適用可能性の高い用途

自動ドア・シャッター/設備の扉

屋内環境の自動ドアやシャッター周辺への適用も可能性があります。たとえば、自動扉が閉まろうとしている際に人が近づいていることをSmart Clothが補助的に検知できます。自動ドアやシャッターのインターロック※1に加えるプラスアルファの安全補助として有効に機能します。

アミューズメントでの非接触スイッチング

屋内のアミューズメント・体験施設では、「人が近づいたら音や光が変わる」といった非接触スイッチングへの応用が想定されます。非接触でインタラクティブな体験演出の仕掛けとして、クリエイターの才能を駆り立てることでしょう。

非接触スイッチ

油や汚れが手に付きやすい環境では、そのままタッチパネルや押しボタンを触ることに抵抗があり、「手を拭く」という作業が必要になります。Smart Clothを非接触スイッチとして活用すれば、手を近づけるだけで生産ラインのスタートや機器の起動が可能になります。

また、特定のエリアに人が入ったことを検知してモニターを起動したり、次工程を自動でスタートさせるといった用途にも応用できます。「人に反応するスイッチ」として、幅広い業界・業種向けに訴求できる可能性を持っています。

食品工場での使用

食品工場のFA設備※2への適用も可能性があります。食品関係の規格への適合が求められる場合でも、使用する素材の変更などで対応できる余地があります。食品製造現場における人と設備の協調安全という観点でも、Smart Clothは有効なソリューションとなります。

ベルトコンベアの巻き込み防止

物流・製造現場のベルトコンベア周辺での巻き込み防止にも活用が期待されます。人を検知してコンベアを停止させるのは、具体的な適用が見込まれる用途の一つです。

 

  1. ※1
    一定の条件が満たされない限り機械の動作を禁止する安全連動機構
  2. ※2
    Factory Automation設備の略。製造工程を自動化するための機械・装置類

将来的に適用可能性のある用途

乗り物型アトラクションの乗員検知(接触検知)

乗り物型アトラクション(ビークル)では、乗客の座席位置や荷重の偏りを検知して制御に活かすニーズがあります。現在は非接触の用途を想定していますが、開発中の接触検知機能を活用することで、乗客の乗車位置をリアルタイムで把握し、荷重偏在による機械への負荷を軽減して耐久性を向上させることが期待されます。乗り物型アトラクション(ビークル)では、乗客の座席位置や荷重の偏りを検知して制御に活かすニーズがあります。現在は非接触の用途を想定していますが、開発中の接触検知機能を活用することで、乗客の乗車位置をリアルタイムで把握し、荷重偏在による機械への負荷を軽減して耐久性を向上させることが期待されます。

医療・介護

医療・介護ロボットへの応用も将来的に可能性が考えられます。たとえば自動走行する車椅子において、ユーザーが乗車していることを検知するセンサとしてSmart Clothを活用するといったケースが想定されます。医療機器特有の規格への適合が必要ですが、人と機械が密接に関わる医療・介護の現場において、Smart Clothが活躍できる可能性は十分にあります。

ヒューマノイドロボット

ヒューマノイドロボットの工場内実装が世界的に始まりつつあり、Smart Clothを適用できる可能性があります。現時点ではヒューマノイドロボット向けの安全規格が十分に整備されていない状況ですが、人と同じ空間で動くロボットに対する安全センシングのニーズは確実に存在します。

今後も広がるSmart Clothの用途

Smart Clothのビジュアルイメージ
Smart Clothビジュアルイメージ

Smart Clothは、「布」という従来あまり注目されなかった素材を活用した静電容量式近接センサです。形状を問わず取り付けられるフレキシブル性、後付けによる導入のしやすさ、そして「どこにでも貼れる非接触センサ」という唯一無二のポジションが、その最大の強みです。

Smart Clothは、人と機械が安全に共存する現場を支える新しいソリューションとして、さまざまな業界・用途への活用が期待されています。導入のご検討やお問い合わせは、I-PEXまでお気軽にご連絡ください。
 

Tags タグからさがす

ものづくりソリューション

技術

アプリケーション

人・文化

サステナビリティ

コーポレート

I-PEXグループ