電気自動車(EV)に積まれた電池は、クルマとしての役目を終えても、まだ多くの電気を蓄える力を残しています。「まだ使えるのに、捨ててしまうのはもったいない」。
取り組んでいるのは、使い終わったEVバッテリーを活かす新規事業。めざすのは、脱炭素・資源循環型社会の実現です。
この事業を担う一人が、新規事業開発統括部エネルギーソリューション部の白坂智之です。
2026年6月、白坂は九州環境エネルギー産業推進機構(K-RIP)の産学官連携活動の一環として、近畿大学福岡キャンパス(6月2日)と北九州市立大学ひびきのキャンパス(6月3日)の2大学で講義を実施。あわせて約100名の学生が参加しました。
「電池を売らない」電池事業?
製品ではなく、社会の困り事を解決する価値を売る
まず白坂が学生に伝えたのは、「I-PEXは電池そのものを売っているわけではない」ということでした。
白坂が所属するエネルギーソリューション部が取り組んでいるのは、役目を終えたEV電池を再利用(リユース)し、社会の中でもう一度活かす蓄電池システム「RENERATH」。良い製品をつくる「モノづくり」に、社会の困り事を解決する「コトづくり」を掛け合わせた新規事業です。
では、蓄電池そのものを売らないなら、何を売るのか。
大切にしているのは「誰の、どんな困り事を解決するのか」という問いです。製品の性能やコストから考える従来の発想ではなく、お客さまや社会の課題を起点に考える。白坂は、こうした発想の転換こそが製造業の「0→1」を生む新規事業の出発点だと語りました。
課題を起点に考えると、製品は思いがけない姿で社会に役立ちます。たとえば、災害で停電しても消えないソーラー街路灯。普段はベンチ、いざというときは非常用電源になる公園設備。電源のない場所を見守る遠隔監視や、街のデータを活かすスマートシティのしくみ。蓄電池に照明や防災、IoTなどの機能を組み合わせれば、街の課題を解決する使い方が広がります。
「I-PEXは、蓄電池という製品ではなく、安心・安全な地域づくりや脱炭素、防災力の向上といった価値そのものを届けています。」
白坂は、事業の本質をそう語りました。
技術を研究する力、社会に実装する力
技術だけでは、社会は動かない
つづいて、事業の背景にある資源の事情にも触れました。
EVバッテリーに使われるレアメタル(希少金属)は、世界中で需要が高まり、安定して手に入れることが難しくなっています。一方で、中古EVが海外へ流れていく現状もあり、せっかくの資源を日本国内で十分に活かしきれていません。だからこそ、使い終わった電池を国内で循環させるしくみづくりは、これからの社会に欠かせないテーマです。
ただし、技術や仕組みが整うだけで、社会が動き出すわけではありません。社会を動かすには、電池を安全に回収・評価する制度づくりや、まだ身近に感じていない人々に価値を実感してもらうこと(社会受容性)が必要です。
「社会課題に正解はありません。企業が持つ技術を、どう社会の価値へ変えていくかが重要なんです。」
白坂は学生へ、技術を研究する力だけでなく、技術を社会に実装する力を持ってほしいと伝えました。
EVバッテリーの再利用について、8割の学生が共感。課題は認知の向上
メッセージは学生にどう響いたのでしょうか。講義のあと、約100名の学生に、EVバッテリーの再利用への共感や関心を尋ねるアンケートに答えてもらいました。
EVバッテリーの再利用について、約8割が「共感できる」と回答。理由として、「資源を有効活用できる」「まだ使える電池を捨てるのはもったいない」「レアメタルの再利用につながる」といった声が並びました。
特に関心を集めていたのは、技術そのものよりも「どう社会へ実装するか」という視点です。EVリユースバッテリーの活用は、環境価値の高さだけでなく、防災や地域インフラの維持・管理といった社会課題の解決手段として捉えられており、中古EVの海外流出やレアメタル不足、災害でも消えない街路灯や非常用電源になるベンチなど、生活に近い場面で社会課題に応える使い方に関心が寄せられました。
「もし自分が企業や自治体の立場だったら、EVバッテリーのリユースを普及させるために何に取り組むか」という問いには、電池の回収体制づくりや街路灯・公園など地域インフラへの導入、太陽光発電との組み合わせなどの活用方法のほか、展示会やCMによる認知拡大・広報活動というアイデアが集まりました。
社会実装に必要なものとして最も多くあがった意見も、「認知の向上」です。「EVや再利用した電池はまだ身近ではない」「利用シーンが想像しづらい」という意見からも、技術や制度を整えるだけでなく、人々の暮らしと結びつく接点をどう増やすかが、これからの普及に向けた鍵になりそうです。
学生へ送ったメッセージ「答えのない課題に、0→1で挑む」
講義の最後に白坂が学生へ送ったのは、こんなメッセージです。
「社会課題は、誰かが解決してくれるものではなく、正解も用意されていません。だからこそ、技術を持つ企業が、0→1で新しい事業を切り拓く意味があるんです。」
「皆さんも、答えのない課題に挑み、0→1の事業を一緒に切り拓きましょう。」
I-PEXはこれからも、自治体や企業、教育機関と協力して社会との接点を広げ、「RENERATH」を社会へ実装する挑戦を続けます。また、大学での講義やインターンシップといった産学連携の取り組みも継続していきます。
「まだ使えるものを、もう一度活かす」。
挑戦は、始まったばかりです。答えのない課題に向き合い、製造業の枠を越えて挑みつづけるI-PEXの歩みに、これからもご注目ください。